シンポジウムとラウンドテーブル要旨

シンポジウム 1: 音楽と身体 ― 音楽的宇宙の探求
シンポジウム 2: 音楽学再考
ラウンド・テーブル 1: アジアにおける音楽近代化の諸相
ラウンド・テーブル 2: 雅楽と雅楽研究の20世紀
ラウンド・テーブル 3: 伝統の創出 ― 音楽・都市・観光




シンポジウム 1: 音楽と身体 ― 音楽的宇宙の探求

チャールズ・カイル(州立ニューヨーク大学)
藤枝守(九州芸術工科大学)
山田陽一(京都市立芸術大学)
司会:中川真(大阪市立大学)

本シンポジウムでは、近年の民族音楽学が最も深い関心を寄せている「環境・音・身体」に焦点をあてて議論したいと思う。20世紀後半の民族音楽学の画期は、60年代にメリアムの提示した「文化のなかの音(音楽)」という概念であった。それを批判的に継承したのが70年代のシーガー、ブラッキングらで、「音(音楽)のなかの文化や社会」という視点が提案された。そしてシェーファーの提唱する音響生態学を巧みに取り込みながら、60〜90年代には、フェルドやローズマンたちが自然環境という広大なフィールドを研究対象に持ち込んできた。
 本シンポジウムは、その流れの延長線上で、環境とそこに生きる人間の身体に対して「エコーロジー echology」という独自の概念で接近するカイルをメインゲストに、環境と響きあう音と、音を生み出す人間の身体との連鎖という観点から、人間の多様な音楽活動がになう人類学的・生態学的意味について考察していきたい。その際、キーワードとなるのは、アコースティックな環境とアコースティックな身体、音・身体・環境の響きあい、響きの生態学などである。人間は環境のひとつのパーツであるという視点から、音とそれにかかわる身体を、「響き」という場のなかに浮上させてみたいと思う。

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シンポジウム 2: 音楽学再考

ニコラス・クック(サウサンプトン大学)
カール・キューグレ(香港大学)
コンラート・キュスター(フライブルク大学)
龍村あや子(京都市立芸術大学)
司会:角倉一朗(東京芸術大学)

 伝統的な音楽学、特に音楽史学は、音楽作品とその創造を主たる対象とし、音楽そのものの解明を中心課題としてきた。しかしジョゼフ・カーマンによる実証主義批判以来、音楽学の研究にはクリティシズムの視点が導入され、ポスト構造主義による脱構築論、デリダやバフチンによる批評理論の影響を受けて、音楽というテクストの新たな読み直しが求められている。このようないわゆるニュー・ミュージコロジーは音楽のなかに音楽以外の意味を読み取り、音楽にひそむイデオロギーや政治的・社会的含意を問題にしている。このような新しい傾向は音楽学に反省を迫り、その視点と対象を拡げることに貢献した。しかしその一方、音楽はともすれば研究対象というより、むしろ音楽以外の意味を読み取るための材料ないし手段となる危険も孕んでいる。音楽の消費市場において、そして部分的には生産市場おいてもグローバル化が進む中で、21世紀の音楽学には何が求められるのか、それをさまざまな角度から論じることがこのセッションの課題である。

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ラウンド・テーブル 1: アジアにおける音楽近代化の諸相

閔庚燦[ミン・ギョンチャン](韓国芸術綜合学校音楽院)
劉麟玉[リュウ・リンギョク](四国学院大学)
長木誠司(東京大学)
司会:岡部真一郎(明治学院大学)

 アジアの国々は、伝統文化と西洋文化のせめぎあいのなかで、自国文化の近代化を進めてきた。本ラウンド・テーブルでは、アジアにおける音楽の近代化の過程で、主として1931年から1945年までの時期にかけてヨーロッパによる植民地化、および日本の侵略がどのような影響を及ぼし、またどのようにそれ以後の音楽文化の近代化に寄与し、または「弊害」を与えたのかということをめぐって、日本およびアジアの各国それぞれの状況を検討し、それぞれの視点からの意見を交換する。

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ラウンド・テーブル 2: 雅楽と雅楽研究の20世紀
アラン・マレット(シドニー大学)
遠藤徹 (東京学芸大学)
塚原康子(東京藝術大学)
寺内直子(神戸大学)
司会:スティーヴン・ネルソン(京都市立芸術大学)

 20世紀は、日本雅楽が激しい脈絡の変化を経験した時代であると同時に、雅楽に対する学的探求が、方法上の多様化と視点の国際化を受け入れた時代でもあった。本ラウンド・テーブルは雅楽と雅楽研究の過去と現在を総括するとともに、研究の未来像を展望する。その主要な論点は、(1)雅楽研究史と日本の音楽学史の関連、(2)古楽譜解読研究の現状と争点、(3)新作雅>楽と復元演奏の回顧と展望、(4)研究上の新しい試み、などである。

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ラウンド・テーブル 3: 伝統の創出 ― 音楽・都市・観光
テレンス・ランカシャー
ヤン・リン(イェテボリ大学)
キース・ニーガス(ロンドン大学)
渡辺 裕 (東京大学)
司会:徳丸吉彦 (放送大学)

 作曲家、作品や演奏の背景をなす都市の固有の「伝統」というようなことをわれわれはよく言う。たとえば、モーツァルトやシュトラウスのウィーンには他の都市にはない長い音楽的伝統があり、彼らの音楽作品という「テクスト」は、この都市という「コンテクスト」がなければ生み出されることはなかったに違いない等々、といった具合に。
 しかしこうした「伝統」は決して都市そのものに内在しているというようなものではない。文化人類学や文化史研究の最近の研究が証しているように、その大半は、様々な外向きの関係を通して「創出」されてきたものなのである。とりわけウィーンのような「観光都市」にあっては、一見「固有」のものにみえる音楽的特徴の大半は、実は観光客の視線との関わりの中で「創出」され、その都市の「アイデンティティ」の一端を形作るものとなっているのであり、それによってむしろ、都市という「テクスト」に対する「コンテクスト」として機能しているのである。
 このラウンド・テーブルでは、このような逆の見方で西洋の芸術音楽について議論してみたい。民族音楽学、ポピュラー音楽研究の領域からのパネリストたちが議論をさらに刺激的なものにしてくれることを期待している。

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